国立劇場で伝統芸能の歩みを知る―国立劇場所蔵芸能資料展

国立劇場邦楽コラム

国立劇場の閉館を10月末に控え、さよなら公演も大詰めです。国立劇場に併設されている伝統芸能情報館及び国立演芸場では、代表的な所蔵資料を展示し、これまでの歩みを振り返る企画展「国立劇場所蔵芸能資料展」が行われています。

国立劇場所蔵芸能資料展の概要

国立劇場が開場したのは、今から約60年前の1966(昭和41)年でした。伝統芸能の上演会場としてだけでなく、伝承者の育成や芸能資料の収集・活用も事業の柱となっていました。そのため、現在では膨大な点数の収集資料が所蔵されています。

今回は、そのうち寄贈品を中心に代表的な資料が公開されます。

展示場所は、国立劇場伝統芸能情報館国立演芸場演芸資料展示室の2カ所です。どちらも国立劇場の裏手にあります。

国立劇場所蔵芸能資料展の展示品

主な展示資料が、国立劇場のホームページに掲載されていますので、2つの展示会場について、伝統芸能情報館、演芸資料展示室の順にいくつかご紹介します。

伝統芸能情報館

伝統芸能情報館では、次の展示内容となっています。

第1章 国立劇場開場時の政府出資資料
第2章 歌舞伎
第3章 鈴木十郎コレクション
第4章 文楽・舞踊・邦楽
第5章 新派・喜劇

・楽琵琶 銘「青山」
国立劇場開場時に政府が出資した資料の一つです。端正な琵琶です。

・四ツ竹踊のスケッチ
明治から大正にかけて活躍した挿絵画家、片山春帆による民俗芸能スケッチ帳。ホームページには、琉球舞踊の四ツ竹踊の様子が描かれたページが掲載されています。

・海老の図と和歌
八代目市川團十郎が描いた海老の絵と七代目市川團十郎が詠んだ「こしをれと」の歌が両面に描かれた色紙です。「こしをれ」とは腰が曲がった海老のことですね。

・田邊尚雄による「音楽見聞録」自筆記録
大正から昭和にかけて活躍した音楽学者田邊久雄の著書全6巻です。

・泉鏡花による「婦系図」の自筆原稿
明治から昭和初期にかけて活躍した小説家泉鏡花による、柳橋の芸者の悲恋を描いた作品「婦系図」の自筆原稿です。推敲の跡が見えます。

演芸資料展示室

国立演芸場の演芸資料展示室では、次の展示内容となっています。

第6章 国立演芸場開場時の政府出資資料
第7章 落語
第8章 講談・浪曲
第9章 奇術〔山本慶一コレクション〕
第10章 漫才

・和奇術書「機巧図彙(きこうずい)」
緒方奇術文庫に所収されている和綴本です。ホームページに掲載されたページでは、からくりの仕組みが描かれています。

・二代目廣澤虎造の半纏(はんてん)
昭和に活躍した浪曲師廣澤虎造が舞台で使用した半纏です。

国立劇場所蔵芸能資料展の開催情報

会期 令和5年8月26日(土)~10月26日(木)
休室日なし 演芸資料展示室は22日まで
開館時間 午前10時から午後6時
場所 国立劇場 伝統芸能情報館 1階 情報展示室
国立演芸場 演芸資料展示室
(東京都千代田区、東京メトロ半蔵門駅・永田町駅)
入場料 無料
監修 石橋健一郎(古典芸能研究家)

詳しい情報は国立劇場ホームページをご覧ください。https://www.ntj.jac.go.jp/tradition/event/ntcollection.html

貴重な収蔵品が見られる珍しい機会ですので、お別れになる初代国立劇場のたたずまいと合わせて見に行くのもよろしいのではないでしょうか。

この記事を書いた人
福まる

大学で日本音楽史と民族音楽学の非常勤講師をしています。最近、地元の資料館で古文書整理員を始めました。お箏と地歌三味線を少し弾きます。記事を書いて、邦楽の世界をもっとオープンにするお手伝いをしたいと思っています。

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