和楽器のアルバムが第65回グラミー賞受賞!Masa Takumi『Sakura』

蹴上インクラインの桜邦楽雑記
蹴上インクラインの桜

2023年2月6日、邦楽にとって嬉しいニュースが飛び込んできました。

アメリカ最大の音楽賞で、日本人の宅見将典さんの作品『Sakura』が最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞を、ドラマーの小川慶太さんが参加するバンド、スナ―キー・パピーの『エンパイア・セントラル』が最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞したというニュースです。

このうち宅見さんの『Sakura』には箏や篠笛が使用され、日本らしさを色濃く映し出した作品になっています。そこで、今回は『Sakura』を取り上げたいと思います。

グラミー賞とは

グラミー賞とは、アメリカでもっとも名誉のある音楽賞です。音楽家、製作者らから成るレコーディング・アカデミーが主催し、楽曲賞、レコード賞、アルバム賞、新人賞の他、さまざまな部門が設けられています。

今年で65回目を迎えますが、これまで坂本龍一、喜多郎、松本孝弘(B‘z)、上原ひろみ(ジャズピアノ)、内田光子(ピアノ)、小澤征爾(指揮)などの多くの日本人が受賞しており、今回受賞の小川慶太さんはなんと2017年、2021年に続いて3回目の受賞です。

和楽器では、2011年に箏奏者の松山夕貴子さんが参加したジャズアルバムが最優秀ニューエイジ・アルバム賞を受賞しています。ですが、今回の宅見将典さんのように多数の和楽器が全編を通して使用されたアルバム作品は初めてでしょう。

さて、グラミー賞を受賞した宅見さんのアルバムとはどのようなものなのでしょうか。まずはタイトル曲を視聴してみたいと思います。

アルバムタイトル曲 Sakura

SAKURA Documentary | GRAMMY® AWARD NOMINEE | MASA TAKUMI
Sakura 作品情報
 プロデューサー Lonnie Park
 作曲 Masa Takumi
 竹笛&篠笛 Ron Korb
 ンゴニ & パーカッション Nadeem Majdalany
 ピアノ、三味線、二胡 Masa Takumi
 箏 Miki Maruta
 パーカッション & バックコーラス Naoki Tate
 ミキシング Hideki Kodera
 マスタリング Ryoji Hata
 ディレクター Tetsuo Inoue

Sakuraには、ピアノ、箏、篠笛、三味線などが使われていて、和楽器とアメリカンポップスの音楽様式がとてもうまく融合した作品だと感じます。予想以上に箏が重く用いられていて、笛もとても効果的です。

丸田美紀さんの箏は、硬質な音色でアクセントを付けるかと思うと柔らかく溶け込む音に変化し、西洋楽器に負けずに余韻も聞かせるという八面六臂の活躍です。桜、刀などの潔く美しいさまが箏の音色によく合っており、この箏の演奏なくしてはこの曲は成立しなかったのではないかとも感じました。

Ron Korbさんによる笛に関しては、最初はバスフルートで低音を聞かせ、次にバンスリーの柔らかく深い音色、最後に篠笛の情緒的なメロディーと、曲の展開に合わせて使い分けられており、笛の使い方は本作品の大きな魅力だと感じました。

スタジオライブ動画では、宅見さんの三味線演奏も見ることができますが、さまざまな和の音色が曲の中に心地よく溶け込んでいるというのも、この曲の一つの聞きどころかと思います。

次に、アルバム全体についてチェックしておきましょう。こちらも必見の内容になっていますよ。

アルバム『Sakura』とは

作曲 Masa Takumi(宅見将典)
演奏 バンスリー、笛子、バスフルート、尺八: Ron Korb (#1,3,4,5,6,7,8)
   ンゴニ&パーカッション: Nadeem Majdalany (全曲)
   パーカッション: Dale Edward Chung (#5)
   バックコーラス&ネイティブ・アメリカン・フルート: Naoki Tate(楯直己)(全曲)
   ギター: Noshir Mody (#3)
   ギター: Matthew Shell (#4)
   箏: Miki Maruta(丸田美紀)(#1,2,3,4,5,6)
   ピアノ、ベース、三味線、二胡: Masa Takumi(宅見将典)(全曲)
収録曲 1 Sakura
    2 Katana
    3 Shizuku
    4 Kaze
    5 Yuzu Doll
    6 Kotodama
    7 Tamashii
    8 Inochi

『Sakura』は、2022年9月に発表されたアルバムです。収録曲は8曲で、全て日本語のタイトルが付けられています。漢字に直すと桜、刀、雫、風、柚子人形、言霊、魂、命となりますね。

グラミー賞受賞決定後のインタビューで宅見さんは、「日本に興味をもってもらえたらと、アルバムの中の曲名はすべて日本語にしました」と述べていて、それが興味を引く魅力の一つになったのかもしれません。
日本人としては分かりやすいネーミングでイメージしやすい言葉が選ばれていると思いますが、個人的には、最後の3曲、言霊、魂、命に意味の重なりがありそうなので、どのようなお考えか伺ってみたいところです。

宅見さんのホームページでは、この曲に関連して桜と刀の持つ日本的なイメージについて解説されていました。
宅見さんのホームページはこちらです。
https://www.masa.world/

アルバム全曲を通してピアノやパーカッションがベースで流れていますが、ほとんどの曲で箏が全面に出る形で使われています。演奏者が箏曲界で著名な丸田美紀さんと知って、技法の確かさに絶大な安心感を持って聞き入りました。

アルバムでは、その他の和楽器も目立つ使われ方をしています。和楽器の種類が豊富なので、よく聞くと、ここでもあそこでも和の音色が聞こえてくるという印象です。さらに、アジアの楽器も加わっているので、和楽器にない低音の音色なども聞こえてきますが、雰囲気を壊すことなく響きに厚みをもたらしています。

インタビューでは「アメリカのサウンドと和楽器の融合を目指して、どちらの国の人にも聞いていただけるような作品にしたのがよかった」と述べていますが、本当にその通りだと思いました。

アルバムはこちらから視聴できます。
https://biglink.to/sakura

宅見さんの受賞後インタビューはこちらです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230206/k10013971911000.html

まとめ

今回、嬉しいニュースに接して記事にしたいと思ったところ、笛の種類の特定に時間がかかってしまいました。篠笛は日本の楽器ですが、バンスリーはインド、バスフルートはヨーロッパの楽器で、私の知識がなかったためです。アルバムデータを見ると、他にもさまざまな地域の伝統楽器が使用されていることが分かります。

『Sakura』は、さまざまなルーツを持つ楽器をとてもうまく融合させ、桜のコンセプトでアメリカポップミュージックの様式にすっきりとまとめたアルバムです。このアルバムの実現は、各楽器の名手の協力を得て、また、それを大勢に受け入れられる様式で見事にまとめ上げた宅見さんの力量によるものだと思います。本作品はまさにグローバル・ミュージック・アルバム賞にふさわしい作品といえるでしょう。これを機に日本人はもとより世界の人々に和楽器が親しまれるきかっけになるといいですね。

この記事を書いた人
福まる

大学で日本音楽史と民族音楽学の非常勤講師をしています。最近、地元の資料館で古文書整理員を始めました。お箏と地歌三味線を少し弾きます。記事を書いて、邦楽の世界をもっとオープンにするお手伝いをしたいと思っています。

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