初代国立劇場での文楽見納め—最後の企画は通し上演《菅原伝授手習鑑》(令和5年5月&8・9月文楽公演)

菅原伝授手習鑑 令和5年おすすめ紹介
菅原伝授手習鑑 令和5年公演

初代国立劇場さよなら公演もいよいよ終わりが近づき、文楽は残すところ5月公演と8・9月公演のみとなりました。その締めくくりにふさわしい演目として《菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)》が選ばれました。

文楽の名作として知られる《菅原伝授手習鑑》は、人気の場面が繰り返し上演されているものの、全編が上演されることはめったにありません。ですが、このたび、2回の公演に分けて通し上演が実施されることになりました。この名作を隅々まで楽しめる絶好の機会となりますね。

菅原伝授手習鑑とは

《菅原伝授手習鑑》とは、学問の神様として知られる菅原道真が京の都から九州の太宰府へ左遷された事件を脚色した人情ドラマで、江戸時代の延享3年(1746年)に大坂の竹本座で初演されました。同じ頃、《義経千本桜》と《仮名手本忠臣蔵》という名作も生まれており、人形浄瑠璃の全盛期の真っ只中に作られた作品といえます。
初演後まもなく歌舞伎でも上演され、現在でも歌舞伎と文楽の両方で人気の作品となっています。

劇中では、菅原道真は菅丞相(かんしょうじょう)と呼ばれ、敵役は藤原時平(ふじわらのしへい*本来の人物名はふじわらのときひら)と呼ばれます。
初演された夏に大坂で三つ子が生まれたことから、劇中には、梅王丸・松王丸・桜丸という三つ子も登場します。

物語は5段構成で、初段から四段はそれぞれ4~6の小段から成っています。全編を上演するには膨大な時間がかかるため、通常は、最も人気の高い四段目の「寺子屋の段」を要として抜粋上演されてきました。
前回の通し上演は昭和47年(1972年)で、なんと51年も前のことだそうです。

あらすじ

長大な作品であらすじが複雑なのですが、少しだけご紹介します。登場人物がとても多いので、それぞれの人物説明は省略しています。詳しくは下記の特製リーフレットをご参照ください。

初段 ①大内の段:宮中での時平と菅丞相の牽制が描かれます。
②加茂堤の段:三つ子の兄弟が登場し、菅丞相の養女である苅屋姫と斎世親王の恋が描かれます。
③筆法伝授の段:初段のクライマックスで、勅命により道真が源蔵に筆法を伝授します。
④築地の段:菅丞相が時平の差し金により流罪となり、菅丞相を守る梅王丸と源蔵・戸浪夫婦が活躍します。

二段目 ①道行詞の甘替:桜丸が飴売りに身をやつし、斎世親王と苅屋姫を守る道行。
②安井汐待の段:菅丞相一行が土師の里へ移動する場面。立田前と苅屋姫の姉妹愛も描かれます。
③杖折檻の段:刈屋姫は菅丞相の流罪の原因となった自分を責め、母親の覚寿は、本意ではないものの、姫を杖で散々に打ちます。
④東天紅の段:立田前の夫と義父の宿禰太郎が菅丞相暗殺を企て、計画を知った立田前を殺害します。
⑤宿禰太郎詮議の段:立田前殺害の犯人が宿禰太郎であることが判明します。
⑥丞相名残の段:菅丞相は、流罪人として出立する前に養女の苅屋姫に一目会いたいという思いを歌に託します。

三段目 ①車曳の段:三つ子の桜丸、梅王丸、松王丸はそれぞれ、斎世親王、菅丞丞、時平に仕えています。桜丸と梅王丸は時平の牛舎を襲いますが、時平の睨みに体がすくみ、襲撃は失敗します。
②茶筅酒の段:三つ子の父親である四郎九郎の古希のお祝いに三つ子の嫁3人が集まります。
③喧嘩の段:松王丸と梅王丸が喧嘩を始め、桜の木を折ってしまいます。
④訴訟の段:四郎九郎は梅王丸に菅丞相の妻子を探すように命じ、松王丸を勘当します。
⑤桜丸切腹の段:桜丸は、自分が斎世親王と苅屋姫の恋を取り持ったことが菅丞相の流罪の原因になった責任を取り、切腹します。

四段目 ①天拝山の段:菅丞相が忠臣ゆえに憤怒で雷神の姿に変化します。
②北嵯峨の段:桜丸の妻である八重は、菅丞相の妻子と共に隠れ里にいましたが、時平の家来に襲われ、亡くなります。
③寺入りの段:源蔵は、菅丞相の一人息子である菅秀才を自分の子と偽り、寺子屋の師匠として暮らしていました。そこへ小太郎という子どもが入門します。
④寺子屋の段:松王丸が菅秀才を探して寺子屋へやって来ます。首実検が行われ、源蔵は小太郎を身代わりに差し出します。菅秀才の顔を知っているはずの松王丸は、なぜか小太郎の首を見て菅秀才だと言って都へ帰ります。これにより、菅秀才は命拾いをしました。しかし、首実検のために殺された小太郎は、実は松王丸の子でした。松王丸は時平に仕えながら、本当は菅丞相のために役立ちたいと思っていたのでした。

五段目 大内天変の段:菅丞相の雷神のために京の都では毎日のように雷が鳴っていました。雷から帝を守るための祈祷が行われる中、判官代輝国が斎世親王、苅屋姫、菅秀才と共に菅家再興を願い出ます。時平は桜丸と八重の亡霊に責められ、苅屋姫と菅秀才に討ち取られます。こうして雷はやみ、菅家は再興し、人々は歓喜にわきました。

公演特設サイト&特製リーフレット

本公演の特設サイトが設けられており、あらすじ、見どころ、配役表、公演・チケット情報がまとめられています。

本公演リーフレットも作成されており、下記リンクの国立劇場のトピックスから見ることができます。
本記事冒頭の写真は特製リーフレットの表紙なのですが、その登場人物の数に圧倒されます。通して観覧すると、全部の人形を見ることができるわけですね。

公演日程

5月公演(2023年5月11日~30日)

第一部 午前10時45分開演(午後1時30分終演予定)
第二部 午後2時開演(午後5時15分終演予定)
第三部 午後5時45分開演(午後8時40分終演予定)
*18日は休演

<第1部>
初段:大内の段/加茂堤の段/筆法伝授の段/築地の段
<第2部>
二段目:道行詞の甘替/安井汐待の段/杖折檻の段/東天紅の段/宿禰太郎詮議の段/丞相名残の段

5月公演<第3部>では、大坂の夏を舞台に繰り広げられる《夏祭浪花鑑》も上演されますので、お見逃しなく!

8・9月公演(2023年8月31日~9月24日)

第一部 午前10時45分開演(午後2時20分終演予定)
第二部 午後3時開演(午後6時15分終演予定)
第三部 午後7時開演(午後9時終演予定)
*7日、15日は休演

<第1部>
三段目:車曳の段/茶筅酒の段/喧嘩の段/訴訟の段/桜丸切腹の段
<第2部>
四段目
:天拝山の段/北嵯峨の段/寺入りの段/寺子屋の段
五段目:大内天変の段

8・9月公演<第3部>では、これも名作として名高い《曽根崎心中》が上演されます。

チケット情報

両公演ともチケット料金及び購入方法(電話・インターネット・窓口)は共通です。
5月公演は既にチケット発売中ですが、8・9月公演は、電話とインターネットが7月14日から、窓口が7月15日からの予定です。

1等席 8,000円
2等席 7,000円
学生1等席 5,600円
学生2等席 4,900円

チケットの詳しい購入方法は、国立劇場のホームページをご覧ください。

この記事を書いた人
福まる

大学で日本音楽史と民族音楽学の非常勤講師をしています。最近、地元の資料館で古文書整理員を始めました。お箏と地歌三味線を少し弾きます。記事を書いて、邦楽の世界をもっとオープンにするお手伝いをしたいと思っています。

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