伝統文化の担い手になれる!国立劇場の伝統芸能伝承者養成事業−歌舞伎・文楽・能楽・太神楽・組踊

国立劇場おすすめ紹介

今回は、歌舞伎役者や三味線奏者になりたい人必見の記事です。国立劇場(正式名称:日本芸術文化振興会)では、歌舞伎や文楽、能楽など伝統芸能の担い手を養成しています。今年もその募集の時期になりましたので、ちょっとのぞいてみましょう。

多岐にわたる研修講座

国立劇場では、伝統芸能伝承者養成事業として各種研修生の講座が設けられています。1966年の開館後まもなく、1970年に歌舞伎俳優研修が開始され、その後、文楽研修や楽器研修が追加されて現在に至っています。現在、養成している研修生には、下記の種類があります。

  • 歌舞伎俳優
  • 歌舞伎音楽(竹本)
  • 歌舞伎音楽(鳴物)
  • 歌舞伎音楽(長唄)
  • 大衆芸能(寄席囃子)
  • 大衆芸能(太神楽)
  • 能楽(三役)
  • 文楽
  • 組踊

歌舞伎だけでなく、大衆芸能、能楽、文楽、沖縄の組踊と多岐にわたる内容になっています。
以下に、簡単に中身を見てみましょう。

歌舞伎(俳優と各種音楽)

歌舞伎の研修講座は、俳優、音楽3種の全4種類です。

歌舞伎

歌舞伎俳優

歌舞伎俳優は、ずばり、歌舞伎役者ですね。歌舞伎役者の家柄出身者でなくてもこの講座を受講して俳優になることができるわけです。

現在、第25期生及び第26期生が研修中で、これまでに98名が研修を修了し、40名が名題(なだい、10年以上活動し、試験に合格した俳優)、58名が名題下として活動しています。
研修の応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男子。期間は2年間で、研修は平日10時から18時まで、化粧の仕方、演技の稽古、日本舞踊、立廻りなどを学習します。

歌舞伎音楽(竹本)

歌舞伎音楽(竹本)は、歌舞伎の演目の中でも人形浄瑠璃から摂取した義太夫狂言の場合に演奏される音楽です。

現在、第24期生が研修中で、これまでに29名が研修を修了し、太夫(語り手)として16名、三味線奏者として13名が活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男子。期間は2年間で、平日10時から18時まで、義太夫(語り)と三味線の他、箏、胡弓、狂言、作法などを学習します。

歌舞伎音楽(鳴物)

歌舞伎音楽(鳴物)は、歌舞伎で三味線以外のすべての楽器を担当し、情景描写や舞台進行のために使われる音楽を奏します。

現在、第17期生が研修中で、これまでに15名が研修を修了し、活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男子。期間は2年間で、平日10時から18時まで、小鼓、大鼓、太鼓、大太鼓、笛、長唄、三味線、作法などを学習します。

歌舞伎音楽(長唄)

歌舞伎音楽(長唄)は、歌舞伎のメインの伴奏音楽で、唄と三味線により演奏されます。

現在、第8期生が研修中で、これまでに10名が研修を修了し、活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男子。期間は3年間で、平日10時から18時まで、長唄(唄・三味線)、鳴物、謡曲、作法などを学習します。

まとめ

こうして見ると、歴史の長い歌舞伎俳優と歌舞伎音楽(竹本)講座の出身者の人数が多く、現在の歌舞伎の人気に一役買っていることがうかがえます。また、長唄だけが期間が3年間と長くなっていますが、その他は2年間で修了し、実践の場に出ていくことになります。短期集中でたくさんの歴史の詰まった伝統を身に付ける、とても充実した数年間になりそうです。ただし、募集は男子のみですね。

大衆芸能(寄席囃子・太神楽)

大衆芸能(寄席囃子・太神楽)

大衆芸能(寄席囃子)

大衆芸能(寄席囃子)は、落語家の出囃子の他、曲芸や奇術を演じるときの伴奏も演奏します。

現在、第16期生が研修中で、これまでに24名が研修を修了し、落語協会あるいは落語芸術協会に所属して活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上45歳以下の女子で、長唄三味線の素養があること。期間は2年間で、平日10時から18時、寄席囃子(三味線、鉦、太鼓等)の他、長唄、清元、端唄、俗曲、鳴物、舞踊、作法等を学習します。

大衆芸能(太神楽)

大衆芸能(太神楽:だいかぐら)は、もともとは伊勢神宮や熱田神宮の神職が獅子舞などを演じる神事芸能で、現在は寄席に欠かせない芸能となっています。

これまでに第7期まで10名が研修を修了しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男女。期間は3年間で、平日10時から18時まで、投げもの(ジャグリングのように道具を放り投げて受け取る芸)、立てもの(あごや額に茶碗などを重ねていく芸)、獅子舞、囃子、舞踊、長唄、寄席囃子等を学習します。

能楽

能楽

能楽(三役)は、能と狂言の舞台に出演する、能楽三役(ワキ方、囃子方、狂言方)を養成します。

現在、第10期生および第11期生が研修中で、これまでに29名が研修を修了し、ワキ方、囃子方(笛、小鼓、大鼓、太鼓)、狂言方として活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男女。期間は基礎研修3年、専門研修3年の計6年間。平日10時から18時まで、ワキ方、狂言方、囃子方の実技のほか、謡、仕舞全般を学習します。
こちらは男女の募集ですが、期間が6年間と長くなっています。

文楽

文楽

文楽(ぶんらく)は、人形浄瑠璃とも呼ばれます。舞台は、太夫の語り、三味線、人形遣いの三業によって成り立ちます。

現在、第30期生が研修中で、これまでに48名が研修を修了し、太夫12名、三味線12名、人形24名が活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上23歳以下の男子。期間は2年間で、大阪の国立文楽劇場で平日10時から18時まで、義太夫、三味線、人形実技の他、箏曲、胡弓、謡、狂言、日本舞踊などを学習します。
研修場所は、文楽の本場の大阪ですね。

組踊

組踊

組踊は、沖縄の歌舞劇で、立方、唄、三線その他の楽器、舞踊から成り立ちます。

現在、第6期生が研修中で、これまでに47名が研修を修了し、立方22名、地方(歌三線、箏、笛、胡弓、太鼓)25名が活動しています。
応募資格は、中学校卒業以上30歳未満の男子で、沖縄伝統芸能に関する素養を有する者。期間は3年間、平日4日間、午後6時半から9時45分まで、国立劇場おきなわにおいて、組踊の実技、琉球舞踊、歌三線、箏、笛、胡弓、太鼓、作法等を学習します。

募集状況

令和3年12月現在、令和4年4月開講の以下の講座の募集があります。

募集コース及び研修期間

  1. 第27期歌舞伎俳優研修      2年間
  2. 第25期歌舞伎音楽(竹本)研修  2年間
  3. 第18期歌舞伎音楽(鳴物)研修  2年間
  4. 第9期歌舞伎音楽(長唄)研修  3年間
  5. 第8期大衆芸能(太神楽)研修  3年間

応募締切は、令和4年1月末日。応募方法等の詳細は下記をご覧ください。
https://www.ntj.jac.go.jp/training/trainee.html

研修生に応募する方向けには研修見学会も開催されています。
日時:令和4年1月15日(土)
場所:国立劇場大稽古場(千代田区隼町4-1)
※事前申込が必要です。
詳細は下記をご覧ください。
https://www.ntj.jac.go.jp/topics/kokuritsu/2021/12124.html

まとめ

国立劇場の伝統芸能伝承者養成事業についてお伝えしました。
今回、改めて研修内容を調べてみましたが、分野が多岐に渡ること、数年の研修期間で毎日みっちり行われ、その内容も必要な技術だけでなくその周辺の知識・技術を学ぶカリキュラムになっており、修了後に即戦力となることを目指していることがよく分かりました。興味本位ではとても務まりそうにありませんが、一生の仕事として伝統芸能に取り組みたい人にはまたとない機会といえるでしょう。

分野によっては、男子だけ、女子だけというものありますが、少しでも興味のある若者には、ぜひこの道を進路選択に含めて検討してもらいたいと思いました。私も進路に迷っている学生に勧めてみようかしら。

参照元:独立行政法人 日本芸術文化振興会 養成事業ページ
写真素材提供元:photolibrary

この記事を書いた人
福まる

大学で日本音楽史と民族音楽学の非常勤講師をしています。最近、地元の資料館で古文書整理員を始めました。お箏と地歌三味線を少し弾きます。記事を書いて、邦楽の世界をもっとオープンにするお手伝いをしたいと思っています。

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